九月四、五日 (日記)

ここに流れる時間には独特の緩慢さがある。前回入院した時もそうだった。退屈はしていない。しかし時の経つのが何やら遅い。今回入院したのはいつのことだったか? 八月二十六日。そうして今日は九月四日だ。わずか九日。しかし入院した日のことがもう少し以…

poem, 足跡(そくせき)第一稿

〝主よ。汝……〟 台風の目 つまり平和と黙考の中心地点 〝病院〟は そこに曖昧に浮遊している。 狂人たちを収容しながら何故か唯一正気を保ち これはどういう不条理だろう 常人たちの暮らす周辺区域のほうが気ちがいじみた混沌の渦中にあって 我を忘れ 道理を…

五月十四 ~ 十五日 (日記抜粋)

◑●◑ 西暦2024年。キリスト暦。 ルカ「言ってごらん、僕の何かを欲しがりながら君はそれをいつまでも言い出せずにいる。君が僕からぜひとも欲しいもの。愛かペニスか哲学か」 メフィスト「二つある。君の妻と君のペニスだ」 ルカ「欲張りなんだな。しかし…

poem. フラワー

思うに 彼女は何かの進化形である 殆どの場合 彼女はほぼ脱力した状態にある 或いはほぼそのように見える状態に 美人で 背丈は幾分高め そうしてその右脚がない 義足の膝から下は鉄の骨格がむき出しの状態である 彼女の言葉 酒とヒマワリの種とを交互に口へ…

poem〝音楽〟

孤身。 暗闇とおれ一人。だがおれはそこにはいないのだ。 意識の谺(こだま)のようなものがあって それだけがそこに残ってわずかに震え わずかな声をあげているらしいのです。 おれは暗闇に無意識に何か捏造をする。 それは或いは冷たい石のほの青白い死の…

〝子午線〟 (短編脚本・第一稿)

● 黒味 全くの黒味と違う。捉えがたい微妙で緩慢な色味と明度の移り変わりのある生命(いのち)ある黒味。そこに女の独白が延々と被さる。 声「旅に出た。死に場所を探して。しかし私の死ぬ前に私の生涯をいまいちど私自身に向けて語って聞かせる必要がある…

〝座標〟 (短編脚本・第一稿)

● その街の点景(日中) 日中なのにその街の各所にはただの一つも人影がない。幾つもの街路、公園、駅前広場、橋。幾つもの無人の光景がある。 そして一本の緑の木。 みずみずしく繁茂して盛んな時を迎えて映る。 ● 一室(同) そこは恐らくマンションの四階…

〝水平角〟(短編脚本・第一稿)

● ホテル・廊下(夜) この廊下の床は紅色である。紅色の絨毯。灯りは煌々としながらもそこにもやはりほのかに赤いものが溶けている。橙(だいだい)色に近い電球の灯。歩いてくる人がある。 この人は黒猫を想わせる。 しなやかで、足音立てず、そうして眼に…

日 記 帳 か ら (詩)

凜乎とした瞳の奥に 無邪気な猫が潜んでいます この人はどこか丸まっている 眠たげなふうでもないが どこやらどことなく丸まっている様子 猫はこの人の根本に通う或いは背骨のようなもの この人は丸まっている しかし瞳は凜乎とし 彼女ほど美しい瞳の持ち主…

日 記 帳 か ら (詩)

眠りのそばにいながらにして 毎秒ごとに蘇生している 月の沁み入る膚と鼓動に 兆したものは? ほんの微かに 口許を綻(ほころ)ばすもの ● 夢の中 そこに見つけた一篇の詩を 眼を醒ましたその瞬間に失くしてしまった それでもここだけは記憶している 〝何の…

苦情です ✓✓

エロ系の奴とか、幾ら広告消しても今後この広告は表示しませんと表示されてもまた表示される…… 何なんだろ。 ウザすぎ…… こんなにエロ広告で溢れてんの世界的に見ても珍しいでしょうに。

七月五日 (日記)

尿意のためにいつも夜中に眼を覚ます。 これも公共設備の男子トイレへ向かう時おれの意識と足取りはまだ半分以上眼覚めてはいない。だが起きている。半分以上眠りから抜け出せずむしろそれにまとわり付かれて大変だけどおれはちゃんとトイレでしたかったこと…

他にもいろいろ

全部スマホ写真です。 (澁澤政裕) 著作権があります。著作権侵害等の行為は法律で禁じられています。

宿泊中……

うちでは集中出来ず、ホテルは環境良いけどやはり集中力を何か欠き、詩を書かずに写真を撮っています。でも〝愛の話〟と〝光〟はホテルで書きました。 写真…… 全部スマホ写真です。 (澁澤政裕) 著作権があります。著作権侵害等の行為は法律で禁じられてい…

(詩)光

高純度の悪意の中に 砕け散る光がありました それはほの青い翼を持った光 金の粒子の航跡を残しつつ 飛び去り 砕け 粉微塵に散り失せて 後には何が残るのでしょう? 冷え冷えとした暗黒に まだ忘れ得ぬものがある (澁澤政裕) 第一稿。後で直すかも。 著作…

大事なこと

当たり前だけど、おれの作品は全ておれのオリジナルです。以前、盗作被害にあったことがあるので。でも、第二稿を投稿するようになったのは実はごく最近のこと。第一稿は心を込めて書き、第二稿は技術で書く。文筆の基本です。書いたばかりの原稿と客観的に…

愛の話

男は勘違いをする。女のそこが潤って秘めやかな音を立てたりすると。女は時に誤った認識を信奉している。愛していない相手となどはセックスは出来ないものだと。確かに心底嫌いな相手とのセックスは女に限らず男にとっても難しいことだろう。だが例え女のそ…

poem〝ファンタジー〟

気になるものは錆びたパイプである この病院の敷地内には植物が多く見られる 恐らくは意図的なもの 何か心的な効能効果のあることを目的としたもの 生命には全て血が通う パイプは病院の建物の要所要所に蔦のように伸び 蔦のように曲がりくねって伸びて絡ん…

poem, 廊下

雷鳴の重量。 街は世の中は荒んだような顔色をして その轟きの重みに堪えきれず 邪(よこしま)でない 邪でない自然と超自然との溶け合わさった 天然の歪(ひず)みへと陥るのです。 時計の針が軋むように音階をつかのま外す。 軋みは窓や路面や壁面といった…

〝星〟poem

二つの星を置いたのだ 自分の窓に 恐らく私の死に場所である小部屋の窓に 何だかグミみたいな半透明のビニール素材の奴 黄色と紫の二つのちいさな星型のシール それをそこに貼りつけた 東京の夜空には真っ白な月だけがある 星々をちりばめた奇跡のような夜空…

入院後記 その3

入院中にはそこから出ることばかりを望んでいた。退院して、あしたで二週間が経つ。いま、あの場所で出会った人たちが懐かしい。 特に看護士さんたち。綺麗な人が多かったが、これは必ずしも顔の造型・造作の問題ではないと思う。価値観と人柄、それの放ち漂…

〝南〟poem

彼女はつねに彼女と彼女以外との距離の計測にかまけている 群青色にほぼ近い蒼い瞳と蒼い口紅 髪は染めたものとは微妙に違う もっと自然な陽に焼かれたような色 膚も幾らか焦げたような色をしていた が、実のところ彼女は韓国の人である 服とブーツは至って…

poem, メルヘン

そこに無人の屋上がある 腕を伸ばしてみたところで届かない距離 でも口笛くらいは贈れもします 近くて遠い 隣の建物の最上階のさらに上 その窓からいつも見ていた ここと同じで病人たちの営みを匂わせる あそこにいつか誰かがあらわれはしないかと 雲は霞の…

poem, 高所

奇跡はそこに生じ、 次の瞬きのあとにはかき消えている。 高所に架かる鉄の階段。 柵も手摺(てすり)も頼りなくそれは無防備というイメージと結びつく。 空洞の部分と足もとの危うい震え、危うげな微震動。 鉄の骨組みだけというイメージ。 それは無防備。 …

poem, 寝室

窖(あなぐら)と違う 窓があって電気も通う条件を充たした部屋なのです 条件? しかしその灯りの点されることは滅多にない その窓のカーテンの開けられることは滅多にない そこにはつねに影たちが棲む 影たち 煙の静止したように暗がりの滞り立ち込める部屋…

(散文詩)Dark side of the Moon

〝巫女〟の灯した灯火はほのかなものだったはずである。ほの白くほの青い、そして夜暗(よやみ)と適切に結ばれてほのかな。 七月、それが七月初旬の出来事なのは、冷たい夏にふさわしい何か鼓動や感触のようなもの、つまり出来事の質感のほうが最も見合う舞…

poem, 祈祷

便座に掛け、 煙草を咥え火を点ける。 百円ライターのプラスチックは透明かつ着色されて透けて見える中のオイルもその色にしか眼には映らない。 煙草を喫う、 身体に有害な中毒性のある合法薬物、 それを自ら体内に取り入れる、 下半身をむき出しにし、 小用…

(詩)歩み

買い物へ行くためこの日初めて外へ出た。 すでに夜。九時というのは真夜中ではない。 だが一つの区切りを意識させる時間でもある。 店じまいの時間。それらの店は夜を拠点として営まれてはいない店。 初めのうちは雷鳴かと思っていた。 それが打ち上げ花火の…

入院後記 その2

〝T〟は童顔のまだ女の子という感じのする三十代女性でした。入院中、入院患者という立場を同じくする人の中では、おれが最も親しくしていた人です。 パニック障害という病について、おれはほとんど知識を持ってはいません。〝T〟は突発的な物音に驚くほど…

NOIR / ノワール, poem

夢見ていた。 微笑を絶えず湛えて見える、そんな口角。 彼は画家である。 手近なものとそうでないものがあることを知っている。 当然のことだった。 女の顔はまだ知れない。 帽子の広いつばと首の角度とに妨げられ、 そこに隠匿されている。 車窓に流れるも…