母の件(十月二十六日日記)

母の出ていく前、母と実家の階段で交わしたやり取りを反芻していた。母はこんなことを言ったと思う。私に死んでほしいのかと。勿論おれはそんなことなどそれまでにひと言も言ってはいない。だが、母のことは分かっていたからこう応じたのだ。いつ死んでくれんの。母は言った。それがお前の望みなのかと。だからおれはもう一度言ったのだ。いつ死んでくれんの。母はもう一度言った。それがお前の望みなのかと。そしておれももう一度言った。いつ死んでくれんの。

分かっている。母のような人間、あの手合い、あの類の人間は醜いまでに図々しいのだ。卑しくて、ちっぽけで、罪悪感を最初から決して抱くことのない人間。卑怯卑劣で陰湿陰険で、自分よりよほど上等な人間を平気で騙し続けながら、醜いまでに図々しく生きながらえている。分かっているのだ。あの人が自ら首を括ることなど絶対にあり得ないのだと。すでに諦め過ぎて期待のかけらもないけれど、何か哀しく思うのだ。もし仮に?    もし仮に母が本当に死んでくれたなら。涙の一つも流してやるのに。

父も姉もあの人の被害者だ。二人は二人ともにお人好しでそのことに気がつきもしていない。今回だけではない。今回だけのはずがない。どんな家にも歴史があるだろう。この家族のそれは見かけよりよほど陰惨なものだろう。

やはりどうしても考える。母が本当に死んでくれたなら。

 

 

                                                   (澁澤政裕)

前記事の通り、母は昨夜再び逃亡しました。

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↓盗作著作権侵害ハッキング盗撮盗聴家宅侵入嫌がらせなどなどストーカー被害関連の記事はこちら。母が関与。呆れた話。

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