poem〝 PS… 〟

私の最初に死んだ時

私は私の寂しい墓を訪ねたものでありました

その黒猫は

或いは私と血を分け合った亡霊でもありましょう

一輪の花さえも手向けてくれた者のない

寂しい墓を

その黒猫だけがその体温の伝えるもので慰めており

いついつまでも慰めて

そして私は彼女を認識し

彼女もまたおなじ心を。

 

卑しい街を裏切るために

月のほの灯りのもと

私たちは色さまざまな鼓動に耳を澄ますのでした

 

サイレンが聴こえた。

 

私の二度めに死んだ時

それはつかのま過って消えた一閃の稲光のよう

私は私たちのまま

彼らの身に起こったことを心静かに眺めておりました。

 

私は何もしなかったけど

確かに何かはしたでしょう

卑しい街の人々がにこやかに錯乱し

或る者は裸になって自分を鞭打って歓喜

或る者は自慰行為に没頭しながらひた走り

或る者は陸橋から西に向かって吠えつづけ

また或る者は喜ばしげに走行中の自動車の前に身を投げ出しました

 

私はすでに死んでいたから

彼らにはもう為せなかったのです

それは。

 

果たしてどれだけの時が流れたものか

そして私は夜の廊下にいました

そこは月と死者とのほの青い静けさに充たされた場所

慕わしい鳴き声が聴こえています

悪夢の中に眼ざめ

私たちはなお永らえる

 

心静かな眠りのままに

眠りのままに。

 

 

                                                    (澁澤政裕)

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