虚ろ(散文詩)第一稿

それは愛についての一つの意見書のようなもの。画質は粗い。男は肥っていて、裸で、黒のブリーフとやはり黒のマスクだけを身に着けている。レスラーの被るような目出し帽のような頭部全体を覆い隠すラバー製のマスク。女は恐らくは〝売り〟をしている。恐らくは三十代、小皺と雀斑(そばかす)のあるその顔はしかしもっと遥かに幼く見える。射精。女がどこに触ったわけでもないのに、しかも男はブリーフを着けているはずなのに、白濁したそれが確かに放射状に飛散した。女の右の頬と口許の辺り眼がけて。手法はスローモーションで効果は何か沈黙と似ている。それだけだ。ピントはもうどこにも合わず、明確に把握できるものはもう何一つない。穴のような沈黙。そこでこの残像的フィルムは終わっている。愛についての一つの意見書のようなもの?    だが、何の?    分からないけど陥没した場所があるのだ。

 

 

                                                      (澁澤政裕)

初稿。例のごとく。時間を置いて直し。

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